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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)13813号 判決 1969年3月18日

原告 中島徹

被告 大木建設株式会社

右訴訟代理人弁護士 三文字正平

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告の請求の趣旨

被告会社が昭和四三年六月一日新日本証券株式会社に対して発行した三二、〇〇〇株および丸三証券株式会社に対して発行した八、〇〇〇株の新株発行はこれを無効とする。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する被告の答弁

主文と同旨

第二、本案前の当事者の主張

一、被告の主張

原告は、本件新株発行日後である昭和四三年六月六日株式を譲受けたものであるところ、新株発行無効の訴を提起し得る株主は、新株発行日における株主であることを要すると解すべきであるから、原告は本訴における当事者適格を有しない。

二、被告の主張に対する原告の答弁

新株発行無効の訴の原告としては、訴提起当時株主であれば足り、その取得の日時に関係なく、当事者としての適格を有するものである。

第三、本案についての当事者の主張

一、原告の請求原因

(一)  原告は、昭和四三年六月六日、訴外北沢滋から被告会社の株式五〇〇株を譲り受け、現に被告会社の株主である。

(二)  被告会社は、昭和四三年五月一一日の取締役会において、記名式額面普通株式四〇、〇〇〇株を、発行価額一株につき金一八〇円で、株主以外の者である訴外新日本証券株式会社および丸三証券株式会社に買取引受させる旨決議し、右決議にもとづき、同年六月一日、新日本証券株式会社に対しては三二、〇〇〇株、丸三証券株式会社に対しては八、〇〇〇株の新株を発行した。

(三)  しかし、右新株の発行は、次の理由により無効である。

(1) 株主に対する新株の額面割当は、戦後証券投資の大衆化の線に沿い、事実たる慣習として行なわれてきたものであり、この意味で株主の有する新株引受権は一つの財産権に外ならないから、憲法第二九条により法律をもってしても奪うことはできない。しかるに、昭和三〇年の改正商法は第二八〇条の二第一項第五号と同条第二項を新設して、株主の有する新株引受権を奪い、この点は、現行商法第二八〇条の二第一項第八号と同条第二項においても根本的には変っていない。したがって、商法の右規定は、憲法第九八条により効力を有せず、本件新株発行は効力を有しない右規定に基いて行なわれたものであるから無効である。

(2) かりに右主張が認められないとしても、本件新株の発行価額は一株につき金一八〇円であるが、被告会社は前記両会社に対し引受手数料として一株につき金六円を交付したから、実質発行価格は金一七四円というべきところ、本件新株の発行価額が決定された昭和四三年五月一一日の前日における被告会社株式の時価は一株につき金二三〇円であったから右金一七四円の発行価額は時価に比し約二四・三四パーセント低く、商法第二八〇条ノ二第二項にいわゆる特に有利なる発行価額に該当する。したがって、右新株発行については株主総会の特別決議を経なければならないのに拘らず、これを経ていない。

(四)  よって、請求の趣旨記載の判決を求める。

二、請求原因に対する被告の答弁

請求原因(一)および(二)を認め、(三)を否認する。

第四、証拠<省略>

理由

一、被告の本案前の主張に対する判断

商法第二八〇条ノ一五第二項は、新株発行無効の訴を提起し得る者として株主または取締役と規定するのみで、新株発行当時の株主に限定していないから、この訴の原告としては、現に株主であることをもって足りると解するのが相当である。したがって、被告の本案前の主張は採用しない。

二、本案についての判断

(一)  請求原因(一)および(二)の事実は当事者間に争いがない。

(二)  請求原因(三)(1)の主張について

昭和三〇年法律第二八号による商法の改正により、第二八〇条ノ二に第一項第五号および第二項が追加され、定款に記載がなくとも、取締役会の決議により株主以外の者に対し一定の要件のもとに新株を発行し得るものとされたこと、そしてその点は昭和四一年法律第八三号による改正後の同条第一項第八号、第二項においても同様であることは、原告主張のとおりであり、原告は、このように取締役会の決議により株主以外の者に対し新株を発行し得ることが規定されたことによって株主の新株引受権が奪われたと主張する。

しかしながら、昭和三〇年法律第二八号による改正前の商法のもとにおいても株主は法律上当然に新株引受権を有していたわけではなく、かりに原告主張のように、株主に対する新株の割当が事実たる慣習であったとしても、株主の新株引受権は、定款にその存在が規定されている場合にその当時の発行予定株式数の限度においてのみ認められていたにすぎない(第一六六条第一項第五号、第三四七条第二項)。そして、右のいわば既得権としての新株引受権に関する定款の規定は、昭和三〇年法律第二八号附則第四項本文により改正後においても効力を有するとされているのであるから、原告主張の前記改正規定によって株主の既得権侵害の問題を生じる余地がないことは明白である。また右改正規定により、株主の意思と直接には関係のない取締役会の決議で株主以外の者に対し新株を発行し得ることになった結果、一見、株主としては、自らの意思によることなく新株の割当を受けられない事態は生じないという一種の期待権を害されたかの如く見えるが定款に、株主の新株引受権について具体的に定めまたはこれについては株主総会で決する旨定めることによって、株主の新株引受権が確保されることは改正前と同様であるから、右のような期待権を害されたということはできない。よって、前記商法第二八〇条ノ二第一項第五号、第二項、ひいては、昭和四一年法律第八三号による改正後の同条第一項第八号、第二項の規定自体によって、株主が新株引受権を奪われたとはいえないから、右各規定が憲法第二九条に違反することを前提とする原告の主張は理由がない。

(三)  請求原因(三)(2)の主張について

株主以外の者に特に有利な発行価額で新株を発行する場合において、株主総会の特別決議の欠缺があっても新株発行前においては、商法第二八〇条ノ一〇の規定による発行の差止、新株発行後においては商法第二六六条第一項第五号または同法第二八〇条ノ一一の規定による取締役または新株を引受けた者の責任の問題が生じることがあるのは格別これをもって新株発行無効の事由とすべきものではないと解するを相当とするから、この点に関する原告の主張も、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

(四)  よって原告の本訴請求は失当であるから、これを棄却する。<以下省略>。

(裁判長裁判官 大西勝也 裁判官 丸尾武良 宍戸達徳)

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